世界中の編集者からのお祝いの言葉

小説『あん』の刊行が決まったのは、10年前のちょうど今頃です。当初発表する予定だった大手の出版社から拒まれ、画家の田内万里夫さんが紹介してくださったポプラ社の編集者が原稿を拾ってくれたのです。
初版4000部のスタートでした。きっと、出して終わりだろうなと思いました。しかし、ハンセン病問題を背景に、自分なりに感じていた生きることの味わいをテーマにできたことで、ボクの内なる成長がありました。執筆者は書くことで階段を登っていきます。ですから、初版で終わっても良いと覚悟は決めていました。
あれから10年。この秋の増刷から、帯カバーが変わります。21言語に翻訳された『あん』に対し、世界各国の担当編集者がお祝いの言葉を送ってくれました。
こういうのは、どうかな。秘すれば花ではないのか、と思いましたが、『あん』がきっかけでボクと知り合った人も多いので、一緒に喜んでくれるかもしれないとも思いました。
日本ではもう古い本になりつつあるかもしれません。ただ、刊行されたばかりのポルトガルやインドネシアからは、読者の皆さんのメールがどんどん届きます。世界のどこかの地域で、『あん』は常に新しいのです。
各国の編集者とともに、仏訳のMyriam Dartois-Akoさん、英訳のAlison Wattsさん、独訳のUrsula Gräfeさん、
伊訳のLaura Testaverdeさんなど、21言語の翻訳者のみなさんが力を尽くしてくださったおかげで、こんなふうに花開きました。
みなさん、本当にありがとうございます。
シリアスなテーマのなかにもFables(寓話)の柱を立て、これからも書き続けていこうと思います。