『孤塁』を紹介します。

3.11が近付いてきました。今年はコロナ禍で追悼式も行われないそうですね。学校はほぼお休み、在宅勤務の方も増え、降って湧いたような時間のなかでなにをするべきか迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。風はまだ冷たいし、こんなときは読書が一番です。まず、3.11関連の本を紹介しますね。
『孤塁 〜双葉郡消防士たちの3.11〜』(吉田千亜著 岩波書店)
大地震と大津波による壊滅的状況のなか、さらに原発事故によって追い込まれていった福島県双葉郡の消防士たちのドキュメンタリーです。
この本、後半に入ってから涙があふれて何度も活字が滲みました。原発の1号機、2号機が爆発し、4号機でも火災が発生したとき、地元の消防士たちが不眠不休でどんな闘いをしたのか。現場で身を呈し、文字通り「命がけ」で原発に入っていった消防士たちの心と声の記録です。
救助が続き眠ることもできない。援軍も来ない。食べるものもない。家族の安否もわからない。極端な被曝で消防署にも戻れない。そんななか、彼らの頭に「特攻隊のみなさんもこうだったのだろうか」という想いがこみあげてきます。
このときの消防士のみなさん、もう戻ってこられないという思いから、こういう行動に出たそうです。
(本文128頁から抜粋)
全面マスクでの活動のため、みな同じ格好で誰が誰なのかわからなくなる。手分けをして養生テープに名前を書き、防火衣に貼り付けていった。井出泰平は、いつも世話になっている先輩に「名前を書いて」と頼まれたが、その作業がつらかった。
佐々木匠も装備を手伝っていたが、親しい先輩から「もし俺が帰ってこなかったら、家族に愛していると伝えてくれ」と声をかけられ、隣にいた先輩からも「俺も頼むわ」と言われた。二人とも笑いながら言ったが、それが冗談ではないのだとわかり、涙がとまらなかった。(抜粋終わり)
写真はまさにこれから事故を起こした原発へと向かう直前のものだそうです。
あの原発事故によって、日本はひょっとしたら終わっていたかもしれません。そうならなかったのは、あり得ないほどの偶然が重なったことと、メディアでは多くを語ることができない一般のみなさんの、この消防士のようなみなさんの献身的な奮闘努力があったからです。
原発は安全だと今もなお唱えるみなさん、さらには原発事業を推進して行こうと考える政治家のみなさんは、本当にあの事故で起きたことを詳細にいたるまで理解しているのだろうか。
チェルノブイリ基準値の4倍に値する年間20ミリシーベルトを健康基準値として強引に設定し、福島の被災地への帰還事業を乱暴に押し進めているのは、オリンピックや世界へのイメージ作りに躍起になっているからでしょう。しかしそれはすでに失敗していると思います。浅薄であるがゆえに、見抜かれています。なぜなら、安倍総理夫妻を始め、推進派のだれもが福島のこのエリアには長く滞在しようとしないから。栃木の那須の御用邸も使われなくなりましたね。
それにしても、計66名の消防士たちにロングインタビューを試み、この一冊にまとめあげた吉田千亜さんの力量と持続的な努力は見上げたものです。素晴らしいの一語に尽きます。
あとがきの、千亜さんが消防隊員の出初め式を観て嗚咽が止まらなくなるシーンでボクも泣きました。
あの原発事故の周囲でなにが起きていたのか。興味ある方はぜひご一読下さい。