新刊小説『水辺のブッダ』発売です。

新刊小説『水辺のブッダ』(小学館)が明日5月15日発売されます。(書店に並ぶのはもう数日あとかも)
ホームレスと風俗嬢しか出てこない、心の物語です。
社会一般へのなにがしかの違和感が、ボクには常にあります。それがこの物語の執筆のきっかけになったことは間違いないのですが、ただ、そこに盛り込んだのは、単純な主張や怒りではなく、ボクらがこの世に在るということに関する、様々な方向からの思索です。
若い頃に三度、インドを歩きました。そのうちの二度は釈尊が悟りを開いたと言われるブッダ・ガヤーを巡る旅で、ずいぶん途方に暮れ、汗も流れ、ひどい病気もした道程でした。存在の根本は何なのか。時とは何なのか。祈りには力があるのかないのか。そうした問いがつきまとう旅でもあったと思います。
今でも問いはあり、心の袋がやぶけてしまうと、ボクは多摩川の川原で暗くなるまで座り込んだり、アカシヤの林に寝転がって、輝きの粒子のように降り注ぐ花びらに埋もれたりします。そうして得た世界観のひとつに、「単独で存在できるものはない」というものの見方があります。
すべてが網の目にように絡み合った関係のなかで、存在たり得る。そのことの発見は、ボクに世界を再構築させ、ある種の安寧を与えてくれもしました。
ボクは『あん』という小説で、ハンセン病の元患者による哲学の開闢を描きました。今回の『水辺のブッダ』は、その哲学の扉の向こうにある、思想の本体を書いたものです。
なぜボクらはここにいるのか。その問いを持つ皆さんに、ぜひ読んでもらいたい物語です。