新刊『線量計と奥の細道』

奥の細道の大半を自転車で走り抜けた旅日記、
『線量計と奥の細道』(幻戯書房)、いよいよ明日発売です。
2012年の8月から11月にかけて、
奥の細道の全行程を、空間線量を測りながら旅しました。
福島第一原発の事故により、日本各地がどれくらい被曝したのか、
自転車のペダルを漕ぎながら計測して回ったのです。
元禄二年に松尾芭蕉と河合曽良が歩いた道は、
東京から始まり、埼玉、栃木、福島、宮城、岩手、山形、秋田、新潟、富山、
石川、福井、滋賀、岐阜へと続く約2000キロです。
この中には、原発事故の直接の被害を受けた場所もあれば、
原発銀座と呼ばれるエリアも含まれています。
そこで出会う人々との意見交換が、この旅日記のひとつの生命となっています。
原発反対と唱えることは簡単ですが、
実際にそこで暮らさなければいけない皆さんに会うと、
旅は徐々に逡巡や懊悩を背負い始めました。
しかしやはり、ゆっくりとした人力の旅だからこそ気付くことも多いのです。
芭蕉の時代との地形の比較を試みれば、
活発に揺れ動く日本列島の特異性が見えてきます。
また、原発が生み出す剰余利益のために地方が耐えるという構造が浮かび上がってくることもあり、
この本の刊行に踏み切る結論にいたりました。
2012年の旅の日記とともに、
その後2016年までの定点観測の結果も記しています。
除染によって線量はどう変化したのか、
その汚染土はどこに隠されたのか、
風景はどう変わったのか、
線量が逆に上がった場所はどこなのか、
自分なりに調べた結果を記しています。
ただ、ガチガチの原発本ではありません。
被曝の現実に出会いながらも、
この国で生きるとはどういうことなのか、
ペダルを漕ぎながら考え続けた思索日記(あるいは酒日記)こそが
根幹になっている本です。
出すかどうか、悩んだんだわ、ずいぶん。
写真点数が67点と多いため、
値段も2200円(税別)と少々高めですが、
お手にとっていただけると幸いです。