都立三宅高校野球部

機会があれば読んで欲しい一冊があります。三宅島の都立三宅高校の社会科教員であり、三十年以上にわたって野球部の監督を務めていらした山本政信先生と部員を巡るドキュメンタリーです。
ボクが、三宅島の復興の一助になればとイタリアントマトの栽培を訴え、そして自分自身の夢のために島に居を構え、東京と往復する生活をスタートさせて2年になります。この間、島にほとんど知り合いがいない自分を支えてくれた一人が山本先生でした。
離島の高校の野球部です。遠征がままならないため、練習試合もできません。年に一回だけの試合、それが神宮球場での夏季大会での初戦です。少人数ゆえ、皆が頑張り過ぎるくらい頑張り、毎日15キロ走り込む猛者もいる三宅高校野球部です。でも、東京の人の多さを見ただけで具合が悪くなる部員もいます。
頑張っても、頑張っても、一勝できるのは十年に一回です。ほとんど毎年、初戦コールド負けです。小指を骨折してしまったピッチャーが延々と投げ抜き、どうにもならなくなったとき、経験のない選手がマウンドに立ってしまうのが三宅高校の野球部なのです。
遠征費もままならないため、彼らは初戦で負けた夜に、竹芝桟橋からの船で島に帰らなければいけません。桟橋での三年生それぞれの挨拶が、その年度の解散式になります。泣きじゃくる三年生たちに山本先生は言います。
「君たちの実力はこんなものだったのだよ。それを知りなさい。野球にはコールド負けがある。でも、人生にコールドゲームはないんだよ。どんなに苦しくたって、どんなに辛くたって、人生にコールドゲームはないんだよ。だから、くじけることなく、あきらめることなく、生きていかなければならないんだよ」
ボクは、トマトが島の復興につながればという思いで飛び込んだとき、本当に不安でした。今でもわかってもらえない孤独はあります。だけど、山本先生のような数人の島民に励まされてここまで来ました。
たぶん、ボクも山本先生の一人の教え子なのです。
くじけることなく、あきらめることなく、火山灰だからこその激うまトマトを信じているのです。そしてとうとう今年、一つの農園が少々の商いができる程度の苗が育ちました。
5年間の全島民避難の時も含め、山本先生が生徒や野球部員たちとどう生き抜いてきたのか。読んでいる間、何度落涙したかわかりません。でも、この一冊は紛れもなく、たぐい稀な希望の書なのです。
『灰とダイヤモンド』(平山讓著・PHP文芸文庫)