なぜ働くのか?

友人が翻訳した本を紹介させて下さい。
『なぜ働くのか』(朝日出版社)
(バリー・シュワルツ著・田内万里夫訳)
なぜ働くのか。
労働はもちろん生活の礎でありますが、
「いかに生きるのか」という、
ボクらの命の表現であり、味わいとなるところの礎でもあります。
同じ仕事をしていても、それぞれの幸福度は違うものです。
仕事を受け身で耐える人と、
積極的にアイデアを加え、喜びに変えていく人。
その違いはどこにあるのか。
著者のバリー・シュワルツは米国の大学教授で専門は心理学です。
彼は、人生をデザインする心を持てるかどうかが、
労働感に大きな差を生み出すと言います。
まずわかりやすい部分で、「お金のため」という認識をすっ飛ばした場合、その労働には従事する意味があるのかどうか?
ブルース・スプリングスティーンの言葉が引用されています。
『音楽が自分を生かしてくれているんだと、俺にはわかっている。それが俺の命なんだ。たとえばテレビや車、家なんかのためにそれをあきらめるのは、アメリカン・ドリームじゃない。そんなものは残念賞だよ、結局。テレビなんかは残念賞なんだ。もしそんなものに目がくらんだら。もし、それを手に入れたとして、それで上がりだと信じてしまえば、それはだまされているってことだ。だってそんなものはただの残念賞で、用心深い人間でない限り、自分自身を売り渡すか、最高の自分をみすみす手放すことでしかないからね。だから慎重にならなきゃだめだ。最初に抱いたアイデアを守り続けなきゃだめだ。そして、より高い舞台に向かえるように望まなきゃだめなんだ』
誰もがこんな言葉のようには生きられないけれど、たとえば工場のオンラインで働いていても、その仕事に自分なりの表現を盛り込めるかどうか、良い日々にできるかどうかはやはり自分次第だと思います。そのようなことを、このバリーさんは書いています。万里夫くんは訳しています。
ボクは放送作家の駆け出しだった頃、ヒットチャート番組でアシスタントをしていて、オンエアするアーティストのPVをレコード会社まで借りに行く係でもありました。誰も優しくしてくれないし、雨の日なんかは泣きたくなる仕事でした。でも、ある日から花を買うことににしました。自腹で一番安い花を買います。そして、PVを貸してくれる担当者にそっと渡しました。それだけでなんだか楽しくなったのです。各レコード会社のそばにどんな花屋があるのか、そんなことを知るのも東京を学ぶ上で参考になりました。
「叫ぶ詩人の会」というバンドでデビューしたとき、キティというレコード会社のディレクターが会いに来てくれました。
「君は工夫があったよね。この人はいずれ何かやると思っていたら、まさかデビューするとはね。花を持ってくる人なんかいなかったから、ずっと覚えていたよ。おめでとう。新しい人生が始まるね」
そう言って祝福してくれました。現実には新たな苦労の日々が始まっただけだったのですが、それでも本当に嬉しかったです。バリーさんと万里夫くんがこの本で書いているのは、おそらくそういうことです。