はたらく動物と。

動物がそばにいてくれるだけで何らかの安定感を得られる方々に、最高に面白く、朗らかに明るく、命として切なく、そして年に二度は繰り返し読むことになるであろう本を紹介します。
「はたらく動物と」(文と絵 金井真紀)
動物の糞の匂いがしてきた瞬間、苦しげな顔になる人とにやにや笑いだす人の二つに分かれるような気がするのですが、ボクはもちろん後者です。3歳のときに行方不明になり、東大農学部の演習場の養豚場で発見されました。たぶん、ずっと豚を見ていたかったのでしょうね。その種の境界のないみなさんに朗報です。「世界はフムフムで満ちている」「酒場學校の日々」(ともに皓星社)の真紀さんが鉛筆と絵筆を持って、ついに夢の領域を歩き始めました。
はたらく動物と。馬や犬や鵜など、人間とともに働く動物たちに最大限の尊敬と、繊細なる憧憬をもって近付いた真紀さんですが、その動物とともに働く人間をもひとつの動物として捉えてしまうのがこの人の感性。これまでになかった二つの意味での「動物記」をここで完成させています。
といっても、文章は堅苦しさからはほど遠く、どちらかといえばフフフと笑ってしまうツボはまりの連続。たとえば長良川の鵜匠が真紀さんにぶつけた言葉。
「わしの話を聞いて、本にするのけ。わしは本は読まん。ぜんぶ鵜から学んどるで。本を書く人間や学者先生なんてもんは、たわけじゃ思うとる」
つまりこの鵜匠も、真紀さんにとっては愛すべく「はたらく動物」なのであり、だからこそ野生の鵜の羽根を切らずとも、彼らがこの鵜匠のそばを飛んで離れていかない秘中の秘を知ったときに、胸を揺さぶる大いなる感動がやってくるのです。
真紀さんの野望はタンザニアの地雷ネズミを取材することですが、今回この一冊目は「モンキードッグ/犬猿の仲はほんとうか」「鵜飼の鵜/鳥が教えてくれた最高の死に方」「耕す馬/野原のたんぽぽサラダ」「盲導犬/自由とはビールを飲みにいく夜道」「パリのニワトリ/世界との向き合い方を考える場所」の5編からなっています。どれも読み応えたっぷりで、ボクらの胸に「シートン動物記」を読んだ頃の歓喜と切なさを呼び起こします。
人間と動物たちの間にさしたる境界を感じないみなさん、ぜひ読まれてみて下さい。「ころから」という出版社です。1380円+税