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こんなことって・・・

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こんなことがあるんだろうかと、今日はホロリと、視界が霞みました。
中国から帰ってきたら、11年間使ってきた Macが起動しない状態になっていました。
なにをやっても、もう目を覚ましてくれないのです。
しかたない。11年ですから、寿命ですね。

外付けハードディスクで本の原稿などはバックアップしていましたが、
およそ6000点ほどの写真がアウト。音楽もアウト。
なんとかデータの取り出しを願い、今日パソコンショップに行ったのです。
小説の締め切りも迫っているので、新しいMacも買いました。

それで・・・これまで使ってきたMacは分解します、とのこと。
長年触ってきたキーボードもゴミとして運ばれていきました。
相手は機械ですが、いったいどれだけの作品をこのMacで生み出してきたのだろうと考え、感無量になりました。

なんといっても、11回書き直した「あん」です。
迷路のようになってしまった作品がシンプルになるまで、
3年もの間よくぞ耐えてくれたMacです。分解され、壊されるMacに向けて、
ボクはそっと「ありがとう。これまで」と念じたのです。

そうしたらね。
こんなことってあるんだろうか。
パソコンショップで流れていたうるさい音楽(たぶん有線)が、突然この曲に変わったのです。
聞き覚えのあるあの澄んだ歌声が胸をつかみました。

「水彩の月」(秦基博)
そう。映画「あん」のために秦さんが書き下ろした曲です。
エンディングで流れていたあの曲。

「ねえ もしも 君にもう一度 会えるとしたら
うまく言えるかな

いつかと 同じ 水彩の月の下でも
また その横顔 見てるだけかな

話せなかったことがたくさんあるんだ
言葉じゃ足りなくて
僕は君へのこの想いにかわる明日を
あてもなく 空に 探しているよ」

相手は、機械です。
でも、11年間毎日いっしょにいた友でした。
それが・・・壊されてしまう最後の瞬間に・・・
何かお互いに通い合ったような気がしたのです。

パソコンショップの店内が滲んで仕方なかった。
ありがとう。貧しき日々をずっと支えてくれたi-mac5。

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お気持ち…わかるなんて、簡単には言えません…。
だけど、グッときました。

No title

数回、データと共に過去を捨ててます。
最初はショックでしたが、
新しく入ってくるものも多いので、
今では何を捨てたのかも思い出せません。
きっと新しいmac君も大活躍ですよ。

ドラマチックな話ですね。
共にすごした、相棒。
残念ながら、手放す瞬間に。
あんの曲が、かかるとは。
まるで励まされたような気になりますよね。
なかなか、そんなことないけど。
きっとパソコンからの、メッセージですね。
感動しました。

偶然?

奇妙な「偶然の一致」を描き続けたアメリカ人の作家、フラナリー・オコナーをぜひ読んでみてください。作品の中の偶然に読者が気づいたとき、そこからパッと世界が違って見えるような、すごい一点を描く作家です。
プロフィール
作家・歌手・明治学院大学国際学部教授

ドリアン助川

Author:ドリアン助川
物語をつづり、詩をうたう道化師です。

近刊
「寂しさから290円儲ける方法」(産業編集センター)
(2023年5月23日刊行予定)
「動物哲学物語」(集英社)
(2023年10月26日刊行予定)
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