過ぎし日を振り返りつつ(3)

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「黒く鳴く」

ホテルの前の街灯は 村じゃ一番の明かりもち
空が紫に沈む頃 虹はここから伸びていく
そのかすかな色彩のカーブに乗って
ひしめき合って飛んでくる コオロギ
触覚の先に魂をぶらさげた
草原の 地雷原の 星の際までの コオロギ

ブオーンと響く翅の音 ゴーンと響く寺の音

兵隊さんのジープも 国連のトラックも
ひび割れたプールも 無数のコオロギに覆われている
黒くうごめいて 黒く鳴いて
いかしたスープで膨らんで

小競り合いはいつものことさ 夜の数だけいがみ合う
バケツに水を入れて 手当たり次第 コオロギをつかんでは放り込む
争う必要はないほどたくさんいるのに 蹴られたり 肘鉄をかまされたり
コオロギと同じ姿勢で 地を這いながら 
ボクら

バケツで溺れるコオロギは もはや鳴くこともできず
黒くもがいて 黒く絶命して 黒く堆積する
あとは油で揚げるだけ 塩とトウガラシであっさりと
あるいはナンプラーにつけてもいい

あつあつのコオロギに齧り付いて
コオロギだけでお腹を膨らませて
ボクはランプの灯りを吹き消す
闇に戻れば お腹の中で
コオロギはまた黒く鳴き始める

いつかきっと母さんは帰ってくる
ボクは一匹のコオロギになり 母さんを捜しに、ホテルの灯りへと飛んでいく
追い掛けてくるのは誰?
ボクのことはつかまえないで
ボクが黒く鳴いているのは
母さんに気付いてもらうためなんだから

ブオーンと響く翅の音 もう鳴らない寺の音

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非公開コメント

ポル・ポトをすっかり忘れていて、ウィキペディアで調べました。日本だって、私の両親が子供の頃に、戦争でたくさんの人が辛い思いをしたのに、「ホタルの墓」だってあるのに、私の頭では、それを今の世の中と結びつけて考えることができませんでした。教えてくださって、ありがとうございました。

リアルタイムで、生の叫びを聞いていた20代の頃とは、いろんな意味で、読後の気持ちが違うものですね。
これからのドリアンさんの作品にも、期待大!です。
25周年を迎える頃には、地に足が着いていることを目標に、ドリアンさんに影響を受けながら、答えを探します。
自分、生きてるかなぁ…?なんて疑問がリアルに起こる今日この頃です。

コオロギの栄養

お母さんのお土産にコオロギの「かりんとう」もよさそうです。

栄養素は半分以上たんぱく質。必須アミノ酸や鉄分などのミネラル・ビタミンも豊富に含み、昆虫は一種の完全食品。お腹を膨らませて正解です。そこ?

お母さんはどこにいても「ボク」がお腹を満たして元気でいてくれることだけを願っているから。

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めゆづさんへの返信

年齢に応じて、というより
成熟に応じて、表現の方法や深みも変わってくるのかな。
そうでありたいと願います。

Belugaさんへの返信

詩のひとつずつに感想を下さって、ありがとうございます。
白イルカさんのバブリングのように、
宙を跳んでいく言葉たち。
これもまた生の一瞬の輝き。

ただそこにあるだけでいい、というのは、無視することとは違うと思っていました。そんなに重く考える必要はないのはもちろんですが、一生懸命、真剣に書いたコメントを無視されて、悲しかったです。ごめんなさい。

無視されたと思われた方へ

誰一人無視などしていませんよ。
ただ、ボクも多忙ゆえ、
全員には返信できていません。
(なるべくするようにはしていますが)
意識的なことではないので、
あまり気に為さらないで下さい。
プロフィール

ドリアン助川

Author:ドリアン助川
物語をつづり、詩をうたう道化師です。

ライブ・公演情報
7月23日(日)
まちジャム
多磨全生園

7月29日(土)30日(日)
星の王子さまミュージアム(箱根)
近刊
「星の王子さま」(皓星社)
「バカボンのパパと読む老子」(角川文庫)
「バカボンのパパと読む老子 実践編」(角川文庫)
「海の子」(ポプラ文庫)
「ピンザの島」(ポプラ文庫)
「坂道 〜Les Pentes〜」(ポニーキャニオン)
「あなたという国 ニューヨーク・サン・ソウル」(新潮社)
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