過ぎし日を振り返りつつ(2)

「商機」
父さん ポル・ポトが橋を爆破しました
退却しながらの攻撃というやつで、ダイナマイトが炸裂
橋の真ん中が吹き飛んで、もう誰も渡れやしません
棒高跳びの選手が棒を突いても、
サーカスのオートバイ乗りがエンジンをふかしても、これはもう無理というものです
父さん 商売をしましょう メコンを渡れない人がたくさんいます
ジープやトラックも護岸に溜まるばかり
ちょいと遠回りして、我らのトラクターで浅瀬を引っ張ってやりましょう
自転車やオートバイなら1ドル トラックなら10ドルはとれます
父さん メコンで商売をしましょう
困っている人がいるんだから 助けてあげないと
それにしても父さん
橋は真ん中がなくなると橋ではなくなるのですね
では、ここからも大きく見えるあの橋、あの橋の残骸をなんと呼べばいいのでしょう
つまり父さん
なにかがなくなると、元の名前は消えてしまうのですね
それなら、道はなにがなくなると、道ではなくなるのですか
虹はなにがなくなると、虹ではなくなるのですか
人はなにがなくなると、人ではなくなるのですか
父さん メコンで商売なんてこれまで考えたこともなかった
そんなことを思いついたのは
なにかを得たのですか それともなにかをなくしたのですか
橋が橋ではなくなった今 ボクもボクではなくなりました
父さん さあ メコンで商売をしましょう