カタール日記(11)

カタールから戻って参りました。
帰りの飛行機のなかで、 新しい映画ではなく「王様と私」を観ました。
もう60年も前のミュージカル映画です。 ユル・ブリンナーもデボラ・カーも、 この世にはいません。
人生はつくづく有限だなと思いました。
そして、隣で寝ていらっしゃる希林さんのお顔を見ました。
ボクの果てる日のことも思いました。
「Shall we dance?」を踊る二人の姿が滲みました。
ボクらは、本当に限りある命です。
生きている間は、この世を見て、聞いて、感じることができれば、 かなり幸せ者だと思うのです。
そして、今この星にいる生あるものたちに、 憎悪やミサイルではなく、 ささやかながらであっても、花束を贈り続けることができれば、 生まれてきて良かったと本当に思うのです。
カタールでは、得難い体験をしました。
民族を越え、宗教を越え、 「あん」がひとつの和合の場をつくっていました。
希林さん、永瀬さん、そこにはいなかったけれども、河瀨さんへの感謝の気持ちを、 ヒジャブをかぶった女性たちが、 白い民族衣裳のアラブの男性たちが口にしました。 「ありがとう」と日本語で言ってくれる人もいました。
文化と宗教が違えば、時にはぶつかり合うこともあるでしょうが、 心の底ではやはり手を握り合うことができる。
創作を通じて、 その鮮やかな森のなかを歩んでいくことができる。
なにに感謝したらいいのかわからないくらい、 豊かな体験をさせてもらいました。
ああ、やはり、人の笑顔はステキです。 このために今、生きている。