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10の奇妙な話。

奇妙な話_convert_20160327230909

田内志文さんの最新訳「10の奇妙な話」(東京創元社)を読みました。
ミック・ジャクソンの短編集「The Sorry Tales」(哀れな物語)の邦訳です。

かつて、ブッシュ政権の好戦性に叛旗をひるがえすため、
ボクが「敗北からの創作」(幻冬舎)という本を出したとき、
雑誌PENの書評欄でとりあげてくれたのが志文さんでした。
(普段は志文ちゃんと呼んでいます)

それ以来の仲なのですが、
ボクと志文さんには共通の夢があって、
たとえばこのミック・ジャクソンやエイミー・ベンダー(管啓次郎さんが訳されています)など、なんともいえず不思議な香りがするもの、映画で言えばティム・バートン(「チャーリーとチョコレート工場」とか)風のものを書いてみたい、作風としたいという思いがあるのです。

日本の作家では、いしいしんじさんでしょうか。

現段階で、ボクはその夢に近付けていません。
書かねばならない、と思っているテーマが幾つかあり、
それをクリアしたところで冒険に出ようと思っているのですが、
志文さんは「フランケンシュタイン」や「吸血鬼ドラキュラ」などの大物を訳したあとで、
みごとにこの道を進み始めました。

非常に嫉妬があります。

とはいえ、面白かったなあ。
蝶の修理屋を志し、古物店で見つけた手術道具を使って博物館の標本の蝶を蘇らせようとする少年の話。掘り出した骨を集めてネックレスをつくる穴堀り大好き少女。金持ち夫婦にやとわれ隠者となった男の顛末。どの短篇も想像がつかない結末へと向かいます。

ルイース・キャロルが実の娘のために「不思議の国のアリス」を書いたように、英国人にはこの種のキレキレな物語を増産する才能があるような気も・・・。

読んで、笑って、焦ります。

レズビアンコミュニティ。

カムアウトチラシ_convert_20160327230747

25日(金)の夜に、燐光群の舞台「カムアウト」を観てきました。
3時間近い長い芝居ですが、圧巻ですよ。
揺さぶられるというより、揺さぶられない大切なものをあらためて確認できる。
そのような意味で落涙しそうになります。

座長の坂手洋二さんが1989年、27歳のときに書き下ろした作品です。
レズビアンコミュニティによるシェアハウスでの生活を物語の分母とし、
押し寄せてくる老いや孤独、親子の問題、無理解な世間、体制からの暴力などが
不安定にうごめく分子、あるいはある種の関数f(x)として描かれます。

27年前の脚本を今、1文字も変えずに再演するというこの大胆さが、
しかし見事に決まっていました。
「LGBT」などという言葉がなかった時代に、
坂手さんは性の多様性をすでに把握していたのでしょう。
そうでなければあり得ない鋭い舞台です。
たくさんの、無言の叫びからの「幸福」について、
この人は27歳でこんなにも真摯に向かい合っていた。
それが驚愕なのです。

ボク自身、今年はまさに性の多様性についての物語を書く計画なので、
瞠目のあとで大いに励まされもしました。

31日(木)まで、下北沢のザ・スズナリです。

文学座、円、テアトルエコー、オリジナルの燐光群の役者たち、オーディションに受かった新人俳優さん、役者陣の熱気も凄まじかった!
プロフィール
作家・歌手・明治学院大学国際学部教授

ドリアン助川

Author:ドリアン助川
物語をつづり、詩をうたう道化師です。

ライブ・公演情報
2021年12月
24日&25日
『新宿の猫』
菊川なぁ〜じゅ
近刊
「水辺のブッダ」(小学館)
「新宿の猫」(ポプラ社)
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