過ぎし日を振り返りつつ(3)

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「黒く鳴く」

ホテルの前の街灯は 村じゃ一番の明かりもち
空が紫に沈む頃 虹はここから伸びていく
そのかすかな色彩のカーブに乗って
ひしめき合って飛んでくる コオロギ
触覚の先に魂をぶらさげた
草原の 地雷原の 星の際までの コオロギ

ブオーンと響く翅の音 ゴーンと響く寺の音

兵隊さんのジープも 国連のトラックも
ひび割れたプールも 無数のコオロギに覆われている
黒くうごめいて 黒く鳴いて
いかしたスープで膨らんで

小競り合いはいつものことさ 夜の数だけいがみ合う
バケツに水を入れて 手当たり次第 コオロギをつかんでは放り込む
争う必要はないほどたくさんいるのに 蹴られたり 肘鉄をかまされたり
コオロギと同じ姿勢で 地を這いながら 
ボクら

バケツで溺れるコオロギは もはや鳴くこともできず
黒くもがいて 黒く絶命して 黒く堆積する
あとは油で揚げるだけ 塩とトウガラシであっさりと
あるいはナンプラーにつけてもいい

あつあつのコオロギに齧り付いて
コオロギだけでお腹を膨らませて
ボクはランプの灯りを吹き消す
闇に戻れば お腹の中で
コオロギはまた黒く鳴き始める

いつかきっと母さんは帰ってくる
ボクは一匹のコオロギになり 母さんを捜しに、ホテルの灯りへと飛んでいく
追い掛けてくるのは誰?
ボクのことはつかまえないで
ボクが黒く鳴いているのは
母さんに気付いてもらうためなんだから

ブオーンと響く翅の音 もう鳴らない寺の音

過ぎし日を振り返りつつ(2)

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「商機」

父さん ポル・ポトが橋を爆破しました
退却しながらの攻撃というやつで、ダイナマイトが炸裂
橋の真ん中が吹き飛んで、もう誰も渡れやしません
棒高跳びの選手が棒を突いても、
サーカスのオートバイ乗りがエンジンをふかしても、これはもう無理というものです
父さん 商売をしましょう メコンを渡れない人がたくさんいます
ジープやトラックも護岸に溜まるばかり
ちょいと遠回りして、我らのトラクターで浅瀬を引っ張ってやりましょう
自転車やオートバイなら1ドル トラックなら10ドルはとれます
父さん メコンで商売をしましょう
困っている人がいるんだから 助けてあげないと

それにしても父さん 
橋は真ん中がなくなると橋ではなくなるのですね
では、ここからも大きく見えるあの橋、あの橋の残骸をなんと呼べばいいのでしょう
つまり父さん
なにかがなくなると、元の名前は消えてしまうのですね

それなら、道はなにがなくなると、道ではなくなるのですか
虹はなにがなくなると、虹ではなくなるのですか
人はなにがなくなると、人ではなくなるのですか

父さん メコンで商売なんてこれまで考えたこともなかった
そんなことを思いついたのは
なにかを得たのですか それともなにかをなくしたのですか

橋が橋ではなくなった今 ボクもボクではなくなりました
父さん さあ メコンで商売をしましょう


過ぎし日を振り返りつつ(1)

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日を追うごとにきな臭くなっていく世界。
好戦的になっていくこの国の内閣。
このまま、非戦を誓った憲法はなし崩し的に壊されてしまうのだろうか。

二十代から三十代にかけて、
ボクは内戦の傷痕が残る地域を歩いた。
それをステージで語るようになったのが「叫ぶ詩人の会」の始まりでもあったのだが・・・。

もう一度あの頃の気持ちに戻るためにも、
武器が武器を呼んだ世界のワンシーンを言葉と写真でいくつかお伝えしたい。


「うろこマーケット」 

うろこマーケットはうろこばかり
生きてる魚を刃物でこすり あちらこちらにうろこを飛ばす
一匹の魚から千枚のうろこ 千匹の魚から百万枚のうろこ 百万匹の魚から十億枚のうろこ
誰も掃除なんてしないから うろこマーケットはうろこばかり

口紅忘れたマーケット
大きなかごをかつぐのも ナマズの頭を落とすのも うろこの中で眠るのも
みんなみんな女ばかり うろこマーケットは女ばかり 男はもう残っちゃいないから

赤いスカートのナマズ売り 旦那は草のつゆになり
青い帽子の鯉売りは 家族残らず空になり
白いズックのうろこ引き 恋人散った 雲の果て

みんなみんな女ばかり うろこマーケットは女ばかり 
誰も化粧なんてしないけど

一人の男と一人の女が出会って 三人の子供が生まれる
三人の男と三人の女が出会って 九人の子供が生まれる
九人の男と九人の女が出会って 二十七人の子供が生まれる

でも、男はいないんだ みんな虹の向うに隠れちまった うろこのように飛び散った

うろこマーケットはうろこばかり 誰も化粧なんてしないんだ
口紅忘れたマーケット うろこばかりのマーケット
プロフィール

ドリアン助川

Author:ドリアン助川
物語をつづり、詩をうたう道化師です。

ライブ・公演情報
11月4日(土)5日(日)
「星の王子様と道化師の惑星」
Eggman Tokyo East
YEN TOWN FOOLsとの合同公演です。
近刊
「星の王子さま」(皓星社)
「バカボンのパパと読む老子」(角川文庫)
「バカボンのパパと読む老子 実践編」(角川文庫)
「海の子」(ポプラ文庫)
「ピンザの島」(ポプラ文庫)
「坂道 〜Les Pentes〜」(ポニーキャニオン)
「あなたという国 ニューヨーク・サン・ソウル」(新潮社)
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