心に灯がともる本

胸に灯がともる一冊の本を紹介します。
『隔離の記憶 ハンセン病と いのちと 希望と』
(高木智子/彩流社)
著者の高木智子さんは、新聞記者です。
全国の元ハンセン病患者のみなさんに出会い、
それぞれの精一杯の、さらに精一杯のいのちの息吹きを、
この本を通じて、
文字で伝えようとしてくれています。
でも、文字ではないんですよね。
高木さんが著して下さったのは、
明滅する生命そのもの。
人のなかに秘められた止まない波のような力。
高木さんにはこんなことを尋ねたことはなかったけれど、
取材のあとでどれだけ泣かれたことだろうと思います。
そして同時に、
この病気、この試練を乗り越えていらしたみなさんから
たとえそこに指がなかろうと、
どれだけ手を差し伸べてもらい、
どれだけの生のイメージを与えてもらった人なのだろうとも思います。
高木さんのかけがえのない日々、
二度と同じ様相にはならない空のごとき心象も
この本から受け取れます。
『あん』の執筆が、
一人の元患者の「存在に対する視線」をもって普遍的な生を問い直すことに目的があったように、
多くのみなさんの人生を紹介するこの本もまた、
ハンセン病にまつわる苦の歴史を開示するに留まるのではなく、
その闇にあって、自ら光を放とうとする人たちの心を、
目の前に静かに差し出してくれるのです。
『あん』がきっかけで、高木さんに出会えて良かった。
高木さんがきっかけで、人生のマウンドから降りず、
どれだけ打たれても完投したみなさんに出会えて良かった。
もし今、なにを読もうかと迷われている方がいらしたら、
本書に少しでもいいから触れられてみて下さい。
この本のなかに収められている塔和子さんの詩。
『師』
私は砂漠にいたから
一滴の水の尊さがわかる
海の中を漂流していたから
つかんだ一片の木ぎれの重さがわかる
闇の中をさまよったから
かすかな灯の見えたときの喜びがわかる