元気が出る本、ありますよ。

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ひとつの問題を巡って、
国民の意見が二分されてしまったりすると、
なんだか地盤が揺れ動くような不安な気持ちになるものだが、
本来、意見の分散というのはけっこう自然な姿で、
むしろ「一億総火の玉だ!」みたいな言葉のもと、
みなが同じ方向を向かなくてはいけなくなってしまったような時に、
本当の破滅が訪れるのだろう。

したがって、ナニコク人だからあいつらはこうだ!
みたいな決めつけをしてしまう人はかなり間違っている。
国のイズムの違いはあるにしろ、
大ざっぱに言うと、どこの国民も十人十色だ。
ナニコク人であろうと、
いっしょに飲める人は飲めるし、
働ける人は働ける。
逆に、同国人であろうと、
相席しなけりゃよかったという人はいる。

といったような実感は、
しかし、机上旅行やネット情報だけではなかなか得にくい。
生きている、という貴重な日々を放浪(あるいは放蕩)に割き、
各国を渡り歩いた人間のみが至れるひとつの感覚なのかもしれない。

下高井戸にJAZZ KEIRIN(ジャズ競輪)といううどん店がある。
ここのうどんはむちゃくちゃうまい。
カレーうどんなら東京で一番うまい。
ひょっとしたら本場の讃岐よりも・・・と、唸る丼が出てくる。

御主人の名前は栂野(とがの)眞二さん。
俺と同い年だ。
好きなことしかやらないと決め、
うどんとJAZZとKEIRINをひとつの店舗のなかで融合させた。
この三つのジャンルのファンが集まるから、
いつも店内は祭りの真っ最中だ。

先日、この本の出版祝いがJAZZ KEIRINであったのだが、
ピアニストの国分弘子さんがピアニカを吹き、
ピクルス田村くんがギターを弾き、
俺が即興で「下高井戸」というタイトルのブルースを歌わせてもらった。
そんなふうにいつも祭りをやっている。
そしてくどいようだが、うどんがうまい。本当にうまい。
いい日本酒もある。

ただ、栂野さんは最初からこの道を歩んだわけではなかった。
大学を出たあと、彼は片道切符だけを持って、
ニュージーランドに上陸する。
青年にありがちな、自分勝手な夢を描いて。
そして、当然のごとく失敗し、
這々(ほうほう)の体で日本に帰ってくる。

これで諦めないのが栂野さんのいいところ。
世界への夢にとうとう火がついてしまい、
彼はタイ、ネパール、インド、スリランカで、
そんなことあり得るのか? という冒険を繰り広げ、
ついにはスリランカ政府から「タワシ王子」と命名されるまで大活躍することになる。

ではなぜ、タワシ御殿が建つほどタワシ貿易に心酔した男が、
うどん店を始めることになったのか?

このあたりは親友との無茶なブラジル旅行が密接に絡んでいたりするのだが、
とにかくエネルギーに満ちあふれた一冊だ。
笑いながら、わくわくしながら、
おのれの人生も見直すことができる。
力をたくさんくれる本でもある。
内側に目がいったまま動けなくなっている人は、
カンフル剤代わりに読むのもいいと思う。

盟友マリオまんだらが初めて編集した本でもある。
小説「あん」を出してくれたポプラ社からの発売。

荒唐無稽な旅が青春の代名詞であった時代。
考えてみれば、俺たちは恵まれていたのだな。
「タワシ王子の人生ゲーム」
読んでから下高井戸にうどんを食べに行くか。
うどんを食べてから本屋さんで買うか。

いずれにしろ、さあ、俺も! と一歩踏み出したくなること請け合い。
(なお、タワシが付録でつくわけではありません)

プロフィール

ドリアン助川

Author:ドリアン助川
物語をつづり、詩をうたう道化師です。

ライブ・公演情報
11月4日(土)5日(日)
「星の王子様と道化師の惑星」
Eggman Tokyo East
YEN TOWN FOOLsとの合同公演です。
近刊
「星の王子さま」(皓星社)
「バカボンのパパと読む老子」(角川文庫)
「バカボンのパパと読む老子 実践編」(角川文庫)
「海の子」(ポプラ文庫)
「ピンザの島」(ポプラ文庫)
「坂道 〜Les Pentes〜」(ポニーキャニオン)
「あなたという国 ニューヨーク・サン・ソウル」(新潮社)
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