なんとも暗い如月の始まりだが・・・

 戦争と平和は対立的に在るものだとボクらは教えられてきた。事実、太平洋戦争終結のあと、ボクらの国は親欧米国家としてこの70年を歩んできた。戦いあったのは大変に不幸なことだが、それを繰り返さないよう、今度は手を握りましょう。という姿勢を(表向きだとしても)、人間本来の性質に一致したものだと捉えてきた。

 だが、問題はそうシンプルなものではない、ということをボクはニューヨーク在住時に知った。2001年9月11日のテロ以前に、北アフリカからやってきた留学生がこう囁いたのだ。
「アメリカは今油断している。そろそろ広島と長崎の恨みを晴らすときがきたのではないか?」

 彼の論理では、相手の民族に大打撃を与えることができるなら、仮に百年後に恨みを果たしたとしてもそれは「正しい行為」となるのだそうだ。むしろその「正しい行為」の機会を待つことが民族的、宗教的な使命なのだと彼は語った。ボクらの感覚ではあり得ないことだが、十字軍の時代、レコンキスタの時代からの積年の恨みがそうした人々にとっての存在の意味となり得るなら、100年にも満たないボクらの人生はあまりに無力ではないか。従来の「戦争と平和」の構図ではなく、人類の内部崩壊に直結するシリアスな問題を、ボクら自身が宿痾として抱えている。

 亡くなられたジャーナリストの母親、奥さん、お子さんの気持ちを思うといたたまれない。また同時に、何万ものモンスターを育ててしまった人類の歴史というものに対し、自分は残りの時間のなかでなにができるのだろう、という焦燥があることも内なる手触りとして確認できる。

 ボクは治安や統率のための力を要求する人間ではなく、創作の力を信じる人間だ。それは何気ない蔓草が花を咲かすに等しく、恨みや権力のぶつかり合いではない場所から生じる、本来の、自然の力でもある。ボクはそれを信じたい。


 

 
プロフィール

ドリアン助川

Author:ドリアン助川
物語をつづり、詩をうたう道化師です。

ライブ・公演情報
11月4日(土)5日(日)
「星の王子様と道化師の惑星」
Eggman Tokyo East
YEN TOWN FOOLsとの合同公演です。
近刊
「星の王子さま」(皓星社)
「バカボンのパパと読む老子」(角川文庫)
「バカボンのパパと読む老子 実践編」(角川文庫)
「海の子」(ポプラ文庫)
「ピンザの島」(ポプラ文庫)
「坂道 〜Les Pentes〜」(ポニーキャニオン)
「あなたという国 ニューヨーク・サン・ソウル」(新潮社)
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