更新できておらずごめんなさい。

1、小学館の月刊誌「本の窓」で連載中の『水辺のブッダ』、最終回を書き終えました。

2、2012年からの放射線量の記録を含む『線量計と奥の細道』(幻戯書房)、この5月か6月に刊行予定です。

3、フランスでの3冊目が10年近く前に絶版となった『カラスのジョンソン』に決まりました。
  今の自分の視点でかなり大胆に書き直し、日本ではポプラ社より近々再発売されます。

4、そのポプラ社から年内に刊行される新刊書き下ろしを今頑張ってやっています。

そういうわけでして、元気ではあるのですが、なかなか時間がとれません。
長い更新しなくてごめんなさいね。

アルザスに行ってきました。

alsace-lunch_convert_20180227151456.jpg

2月6日(火)から14日(水)まで、フランスのアルザスに行ってきました。
サン=ルイという町の中学校が、フランス語版『あん』(Les délices de Tokyo)を副読本にしてくれているのです。
優等生からツッパリまで、多くの生徒のみなさんが読んでくれていました。

今回は校長のカトリーヌ先生のご招待で、10を越えるクラスで講演やどら焼きの実習を行いました。
自分はいかにフランス語ができないか、というところまではフランス語で自己紹介し、
講演そのものは日本語で行いました。
フランス語版翻訳者のミリアンさんがすぐ横にいてくれて、逐一通訳をしてくれます。

実り多い一週間でした。
ドイツやスイスと国境を接しているアルザス。
辺境とも言えるこの町で、『あん』がこんなにも多くの人々に読まれている。
大人を対象とした町のホールの講演も盛況で、
質疑応答も盛り上がりました。

写真は、カトリーヌ先生(奥)をはじめ、
今回の講演の旅に尽力して下さったみなさんです。
ボクのカトリーヌ先生の間が翻訳者のミリアンさん。
記憶のなかで輝き続けるであろう素晴らしい旅となりました。
ひょっとしたら、友達もできたかも。

あけましておめでとうございます。

2018初日の出2_convert_20180101074536

みなさん、あけましておめでとうございます。
2018年、1月1日、午前7時、多摩川の初日の出です。
この暁光が、みなさんとボクの僥倖にもつながりますように。
一日一日、生きている感じで生きていきたいと思います。

東北おんば訳 石川啄木のうた

IMG_0428_convert_20171228115909.jpg

やや長きキスを交して別れ来し
深夜の街の
遠き火事かな (啄木)

とっぐりど 唇(くぢびる)合ァせで別(わが)れで来たぁ
夜中の街(まぢ)の
遠い火事(かず)みでァだなぁ (おんば訳)


はたらけど
はたらけど猶わが生活楽にならざり
ぢつと手を見る (啄木)

稼せぇでも
稼せぇでも なんぼ稼せぇでも楽(らぐ)になんねァ
じィっと 手っこ見っぺ (おんば訳)


ある朝のかなしき夢のさめぎはに
鼻に入り来し
味噌を煮る香よ (啄木)

ある朝ま 嫌(や)んた夢見だ起ぎがげに
鼻さ入ァつた、
味噌汁(おづげ)のにおいっこ (おんば訳)

昨年いっしょに朗読会をやっていただいた詩人の新井高子さんが
『東北おんば訳 石川啄木のうた』(未来社)を編まれました。
新井さんは震災をきっかけに、詩にもなにかできないかと考え、
岩手県大船渡市の仮設住宅集会室や総合福祉センターを会場に
地元のみなさんと啄木訳のプロジェクトを立ち上げます。
そして計9回の催しを経て、啄木の歌百首のおんば訳を仕上げます。

大船渡で「おんば」と呼ばれる高齢の女性たちが、土地の言葉とリズムで表した啄木の世界。

思うにボクらは、この一人の魂でさえ、ミルフィーユのように無数に重なり合う幽かな意識の連合体です。文字を選び、並べ、表わすという行為は、そこにひとつの輪郭をこしらえる作業です。
くっきりとしている。鮮やかです。だから伝えることもできるのですが、文字は行間の海から飛び出した氷山のようなもので、書かれていない気配にこそ、秘められた息吹があるものです。

ハンセン病のことを勉強しても『あん』は書けませんでした。実際に元患者さんに会い、療養所に何度も足を運ぶことで、活字の背後に隠れていた気配がものを語り始めたのです。

同じことで、啄木の歌を知って、わかったような気分になっていた自分が、おんばたちの言葉とその肉感的なオノマトペに触れたことで、揺れ動く意識としての啄木、三陸の大津波の地へ旅をして涙を流した少年から始まる「果てなき彷徨」が、文字と文字の間の白い雲の間から湧いて出てくるのです。

啄木についての簡潔なエッセイも胸にしみます。穏やかなお正月にお似合いの一冊です。

金井真紀さんにまたやられた。

IMG_0396_convert_20171216153507.jpg

また金井真紀さんに気持ち良くやられました。
出版界ではすでに話題沸騰なのでご存知の方も多いでしょうが、
パリで出会った引力を感じるおじさんたちに直撃インタビューを試みた
この「魅惑のおじさんコレクション」はつまり、
「おじさんの生き方コレクション」であり、「人間の価値観図鑑」でもあるのです。

一人一人のおじさんの生き方を読む度に、
人間社会の幅や奥行きなどはもとから決まっておらず、
すべては個人の想像力と実行力にかかっているのだ、ということがよーくわかってきます。
社会からのちょっとした逸脱に悲哀や焦燥を感じている人には
きっと力を与えてくれる本だと思います。

またこの本には別の効果もあります。
読み進めるうちに、いわゆるモンマルトル的なパリのイメージは遥か後方へとおしやられ、
旧植民地と不可分のパリ、移民うずまくパリ、シリアやイラクからの難民を抱えたパリ、
テロが複数回起きているパリ、極右政党の支持者が増えつつあるパリ、といったふうに、
世界が直面している問題が凝縮した街としてのパリ、そこでおじさんたちが何を考え、どう行動しようとしているのか、それもまた真紀さんの柔らかな絵と文章から等身大で伝わってくるのです。

もちろん、世界は今だけではなく、いつの時代も問題に直面していました。
そのような意味では、ホロコーストの惨禍からただ一人生き残った少年(今は高齢のおじさん)の独白や、ボートピープルの妹さん夫婦を亡くしたベトナム人医師の語りなど、強く心を打つおじさんたちの言葉もあります。

しかし一番感じ入るのは、これだけの突撃取材を敢行した金井真紀さんと案内の広岡雄児さんの人間に対する熱意と敬意です。読んでいるうちに気付くのは、「ああ、自分もかつてはこんなふうに人を愛していたかもしれない」という記憶の向こうの手触りでした。その遠いところからの温もりを、少し回復できたような気にもなるのです。

「パリのすてきなおじさん」(柏書房)、すてきなエッセイストによる、すてきなすてきな本です。
プロフィール

ドリアン助川

Author:ドリアン助川
物語をつづり、詩をうたう道化師です。

ライブ・公演情報
2018年1月28日(日)
朗読劇『あん』
早稲田大学大隈講堂
近刊
「星の王子さま」(皓星社)
「バカボンのパパと読む老子」(角川文庫)
「バカボンのパパと読む老子 実践編」(角川文庫)
「海の子」(ポプラ文庫)
「ピンザの島」(ポプラ文庫)
「坂道 〜Les Pentes〜」(ポニーキャニオン)
「あなたという国 ニューヨーク・サン・ソウル」(新潮社)
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ